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世界中で20万円という低価格でニュースになった「ナノ」という低価格車を武器にした、財閥タタグループのタタ自動車は、拡大するインド自動車市場において、なぜ、ランキングを落とし、凋落したのか?
凋落の原因こそ、「ナノ」にあったという皮肉な事実にこそ、インド人の自動車に対するニーズが見えてきます。
インド車メーカーシェアランキングの変遷
インド自動車市場におけるメーカーシェアのランキングで、タタ自動車(以下「タタ・モーターズ」という)は、何位くらいなのでしょうか?
2019年2月現在の乗用車のメーカー別生産台数を見ると、下表の通りです。
引用:https://www.marklines.com/ja/statistics/flash_prod/productionfig_india_2019
タタ・モーターズは、5位、わずか、5.8%のシェアに過ぎません。
一方、マルチスズキは、ダントツの1位、43.9%のシェアを誇ります。
ついでに、合計生産台数は、乗用車の約3分の1の商用車について、2019年2月現在のメーカー別生産台数を見ると、下表の通りです。
引用:https://www.marklines.com/ja/statistics/flash_prod/productionfig_india_2019
タタ・モーターズは、商用車では、さすがに、昔の名残で、1位、40.6%のシェアです。
一方、マルチスズキは、7位、わずかに1.5%のシェアです。
乗用車は一般市民向け、商用車は官公庁や企業向けですから、市場が全く違います。
自動車市場拡大を示すのは、乗用車です。
だから、以下は、乗用車について、語ります。
過去のインド自動車市場におけるメーカーシェアのランキングで、タタ自動車(以下「タタ・モーターズ」という)は、何位くらいなのでしょうか?
急成長するインド自動車市場 – 京都大学経済学部(Adobe PDF)
引用:www.econ.kyoto-u.ac.jp/~shioji/resource/Nomura.pdf
2005年
タタ・モーターズは、2位、16.5%のシェアです。
このころは、タタ・モーターズは、まだ、上位をキープしていました。
一方、マルチスズキ(Maruti Udyog)は、1位、47.0%で、やはり群を抜いています。
急成長するインド自動車市場 – 京都大学経済学部(Adobe PDF)
引用:www.econ.kyoto-u.ac.jp/~shioji/resource/Nomura.pdf
2015年
タタ・モーターズ(Tata Motors)は、5位、5.8%のシェアです。
一方、マルチスズキ(Maruti Suzuki※旧Maruti Udyog)は、1位、46.5%で、群を抜いています。
マルチスズキは、一時、80%のシェアでした。
マルチ800を販売していた高成長前のころです。
その後、他のメーカーが参入してシェアを落としたとはいえ、今でも、依然、ダントツのシェアをキープしています。
インド自動車市場全体での生産台数は、
乗用車の場合
2015年 3,408,849台
2016年 3,707,348台(対前年比+8.8%)
2017年 3,952,550台(対前年比+6.6%)
と毎年伸びています。
そんな中、
タタ・モーターズは、2019年も、2015年も、5.8%と同一のシェアです。
これは、インド自動車市場全体が毎年、伸びている中では、タタ・モーターズは、シェアを下げていることになります。
そういう見方をすると、マルチスズキもシェアを46.5%から43.9%に下げていますから、タタ・モーターズ以上にシェアを下げています。
いかに、他車とのシェアを奪い合いが厳しいか、如実に示しています。
両社とも、何らかの対策を講じるべきでしょう。
でも、タタ・モーターズがこんなに凋落した原因は、本当に何だったのでしょうか?
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/タタ・ナノ
インド車メーカーシェアでタタ・モーターズが凋落した原因とは?
そもそも、インドでの自動車産業は、いつごろ、立ち上げられ、どんなメーカーが存在していたのでしょうか?
そして、初期の自動車メーカーは、現在、どのようになったのでしょうか?
まずは、インドでの自動車産業の足取りを見てみましょう。
インドでの自動車産業の足取り
イギリスの植民地時代は、イギリスからの自動車輸入に頼っていました。
1947年 植民地解放後、国内生産開始
1942年 ビルラ財閥が、ヒンドゥスタン・モーターズを設立
1945年 タタ財閥が、タタ・モーターズを設立。
1949年 英国のモーリス社とヒンダスタン・モーターズが提携
1953年 インド政府が自動車の部品国産化を推進する方針を決定
四輪車部門への新規参入は事実上禁止
また自動車・自動車部品輸入も厳しく制限
インドの自動車産業は強い保護政策のもとに寡占体制が持続
1950年代から30年間インド乗用車生産は100%国産車
1954年 GMとフォードが撤退
1954-1956年にはモーリス・オックスフォード・シリーズの組み立て販売開始
1958年 インド名アンバサダー(乗用車アンバサダー)が誕生
※ベース車はイギリスで1956年に生産が開始された「モーリス・オックスフォード シリーズⅢ」
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒンドゥスタン・アンバサダー
1960年代の生産車種
四輪車は、乗用車、バス、トラック
二輪車は、スクーター、モペット
三輪車は、トラクター
など
1980年以前のインドの乗用車メーカー
・ヒンドゥスタン・モーターズ
・プレミア・オートモービルズ
・スタンダード・モーターズ
の3社体制
今では下図の通りです。
引用:「インドの自動車産業におけるM&A」-M&A in Indian Automobile Industry-
インド自動車メーカーの生産台数は
1970年代までは年間数千台
1980年に入ってからは10万台超
インドの自動車販売台数と生産台数1997年から2006年までは、下表の通りです。
1981年 スズキは、インド政府との合弁事業であるマルチ・ウドヨグ(Maruti Udyog Ltd、マルチスズキ)に参入し、
1983年乗用車生産開始
1991年ベルリンの壁崩壊
インド自動車市場が拡大した原因の一つに、世界の政治情勢の激変を引き起こした事件がありました。
それは、1991年のベルリンの壁崩壊
これを契機に、とうとうソ連は崩壊してしまいました。
それまでソ連を頼りにしてきたインド経済は大打撃を受けました。
さらに、湾岸戦争で石油が高騰し、中東への出稼ぎによる外貨獲得が激減し、外貨準備高が不足しました。
通貨危機に陥ったインド政府はルピーを20%切り下げ、親共産主義の方向を改め、経済自由化政策を打ち出しました。
1991年インド経済自由化で、日米欧韓の大手自動車メーカーによるインドへの進出が本格化
1993年乗用車部門に対する産業ライセンス制度撤廃、
外資政策もそれまでの外資出資比率の上限である40%という制限が撤廃、50%以上の出資が可能となりました。
経済自由化後に参入した日本のメーカーは、
・トヨタ
・ホンダ
・三菱
・マツダ
など
経済自由化後に参入した海外のメーカーは、
・ルノー
・GM
・ダイムラー
・フィアット
・ヒュンダイ(現代)
・フォード
・シュコダ
・BMW
・ボルボ
・デーウ(かつての大宇自動車)
など
進出の方法は、外資系自動車メーカーがM&A を行いながらインドへの進出と活発化しました。
たとえば、
・米国のGMと日本の三菱自動車は、ヒンドゥスタン・モーターズと提携
・フィアットとプレミア・オートモービルズは資本提携や技術提携
・フォードが、マヒンドラ・アンド・マヒンドラグループと合弁
・トヨタはキルロスカル(Kirloskar)グループと合弁
・フォルクスワーゲンはアイーシャグループと合弁
など
インド自動車市場におけるM&A概要
引用:「インドの自動車産業におけるM&A」-M&A in Indian Automobile Industry-
引用:「インドの自動車産業におけるM&A」-M&A in Indian Automobile Industry-
しかしながら、2007年~2008年の自動車市場のシェアのほとんどは二輪車が占めていました。
2007年~2008年の自動車市場のシェア
引用:「インドの自動車産業におけるM&A」-M&A in Indian Automobile Industry-
インド二輪車市場の急成長の主な理由は次の3点
・インドの経済成長により、新中間層といわれる中間所得層の所得が向上したこと
年収で世帯所得9万~100万ルピー(約23万円~260万円)
インド中間所得層の所得の傾向
引用:「インドの自動車産業におけるM&A」-M&A in Indian Automobile Industry-
・外資系企業がインド市場に参入したため、インドの企業の技術力の底上げが図られ、自動車市場でも製品の多様化と品質向上が進んだこと
・2000年以降のインフレ率低下、金利低下により、自動車などの耐久消費財の購入が進んだこと
さらに、二輪車から四輪車への買い替えも進んできて、価格に厳しいインドの人々も、低価格なら四輪車を買いたいという人も現れ増加してきました。
そこで、タタ・モーターズは、新中間層を狙って世界一低価格の「ナノ」の販売を開始しました。2008年のことです。
これは、世界中でニュースになりました。
ナノを生産販売した、タタ・モーターズとは、一体、どんな会社なんでしょう?
インド車メーカー タタ・モーターズの歩み
1945年 タタ財閥が、「Tata Engineering and Locomotive Company」(タタ・モーターズ)として会社設立。ムンバイに本社を置く。
昭和20年、第二次世界大戦終了のときです。
1990年 乗用車生産を強化し始める。
1998年 タタ・モーターズ、インド初の独自開発乗用車である「インディカ」を発売。
2003年 社名を、現在の「Tata Motors」(タタ・モーターズ)に改称。
2004年 韓国で2番目に大きな大宇のトラック部門を買収してタタ大宇商用車(Tata Daewoo Commercial Vehicle )を設立。
2005年 スペインのバス製造会社、イスパノ・カロセラの株式を21%取得。
2006年 イタリアのフィアットと提携しジョイントベンチャーを設立
2008年1月10日 「タタ・ナノ」の開発を発表。
その低価格に、世界中で衝撃が走りました。
2008年2月13日 圧縮空気自動車「タタ・ワンキャット」を発表。フランスのMDIが基幹部分を開発。インド国内で1年以内に販売を開始するとアナウンスされたが、2009年末には販売予定時期を2011年に延期している。
ワンキャット
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/タタ・ワンキャット
タタ・モーターズは、このころ、売り上げ絶好調ですが、いくらなんでも、先っぱしり過ぎです。
たしかに、圧縮空気の自動車なら、燃料いらずだし、環境にもやさしい自動車です。
しかし、いまだに、実用化した国はありません。
2008年3月 フォードからジャガーとランドローバーを約23億ドルで買収
お金にまかせて、どんどん買収します。
2009年3月23日 タタ・ナノ発売開始。
2009年7月 ナノの初出荷
以降発煙・発火事故が計6件起こっています。
原因はいまだ解明されていません。
タタ・モーターズの発表では、「(事故は全体のごく一部の車両のみであり)何千台ものナノが全く問題なく走っていることも知っておいてほしい」とのことでしたが、ユーザーにとってみれば、いつ事故に遭遇するか予測がつきませんから、とんでもないことです。
2012年10月 GMインドなどに在籍の実績のあったカール・スリムが社長就任。
ナノの売れ行き不振、めぼしい新型車が投入されないなどの事情により、同年後半よりタタは経営不振に陥っており、同氏が再建を託される形となった。
2014年1月26日 – カール・スリム社長が滞在中のタイ・バンコクのシャングリ・ラ・バンコク22階より転落死。
タタ・モーターズ凋落の始まりを暗示するような事件です。
その影響は、タタ・モーターズのセグメント別販売比率を2005年と2015年で比較すると、よくわかります。
セグメント別販売比率2005年(インド乗用車)
急成長するインド自動車市場 – 京都大学経済学部(Adobe PDF)
引用:www.econ.kyoto-u.ac.jp/~shioji/resource/Nomura.pdf
セグメント別販売比率2005年(タタ・モーターズ)
2005年時点、タタ・モーターズのコンパクトのシェアは、181,727台の58.5%ですから、106,310台
インド乗用車のコンパクトのシェアは、15.9%ですから、178,595台
したがって、タタ・モーターズのシェアは、178,595台の内、106,310台であり、59.5%のシェアになります。
ところが、2015年になると、どうなるか?
セグメント別販売比率2015年(インド乗用車)
急成長するインド自動車市場 – 京都大学経済学部(Adobe PDF)
引用:www.econ.kyoto-u.ac.jp/~shioji/resource/Nomura.pdf
セグメント別販売比率2015年(タタ・モーターズ)
2015年時点、タタ・モーターズのコンパクトのシェアは、129,574台の49.0%ですから、63,491台
インド乗用車のコンパクトのシェアは、43.0%ですから、1,197,534台と6.7倍の伸びを示している一方、
タタ・モーターズのシェアは、1,197,534台の内、63,491台であり、5.3%のシェアに激減しています。
いかがですか?
タタ・モーターズはナノの失敗以後、新車を投入できていません。
インディカも2万台、セグメントシェア2%まで落ち込み、
コンパクトで59.5%あったシェアの大半を失い、
同セグメントで5.3%まで落ち込んでいます。
インド車メーカーで、これほどの凋落は他に例がありません。
LCV(小型商用車)が好調のインド自動車市場とはいえ、
「超低価格」だけでは破壊的イノベーションを起こすことはできませんでした。
タタ・モーターズ
今後、どのような施策を打ち出すでしょうか?
主な車種
乗用車
・ナノ(Nano 、2008年発売)
ニューデリー・オートエキスポにて世界初公開され、同年9月にインド国内で発売された。
624cc リアエンジン、5人乗り。価格は10万ルピーであり、量産自動車としては世界で最安値である。
現在は部品コストの上昇により価格の上昇が続いている。
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/タタ・モーターズ
・インディカ(Indica 、1998年発売)
サブコンパクトハッチバック、インドで初めて開発された乗用車
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/タタ・モーターズ
・インディゴ(Indigo 、2002年発売)
インディカベースのサブコンパクトセダン
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Tata_Indigo.jpg
・インディゴ・マリーナ(Indigo Marina 、2004年発売)
インディゴのステーションワゴン
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/タタ・モーターズ
SUV
・スモー(Sumo 、1994年発売)
クロスカントリー車。
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/タタ・モーターズ
・サファリ(Safari 、1998年発売)
SUV。2200ccのコモンレール・ディーゼルエンジンを搭載。
2012年にモデルチェンジ版の「サファリSTORME」が発表。
引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Tata_Safari
・アリア(Aria、2010年発売)
サファリより一回り小さいSUV。
クロスオーバーと称しているがボディオンフレーム構造である。
引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Tata_Aria
商用車・トラック
・エース(Ace 、2005年発売)
かつてトヨタ自動車で生産されていた小型トラックのミニエースや、日本の軽トラックに近いサイズ。
700ccのディーゼルエンジンを搭載。積載量は0.75トン。
上位車種のスーパーエースや小型版のエースジップも投入された。
引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Tata_Ace#/media/File:Tata_MiniAce_in_Bangalore.jpg
・マジック(Magic 、2007年発売)
エース派生の小型ワゴン。2010年にはエースジップ派生バンの「マジック・アイリス」を追加。
引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Tata_Ace#/media/File:Yellow_color_minivan_2013-12-30_18-58.jpg
・ヴェンチャー(Venture、2010年発売)
スーパーエース派生ワゴン。
引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Tata_Venture#/media/File:Tata_Venture_1.4_Turbo_Diesel.jpg
・TL/207DI
ピックアップトラック。
引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Tata_Telcoline
・ゼノン(XENON 、2008年発売)
TL後継のピックアップトラック。バンコクモーターショーで発表したニューモデル。
2200ccのコモンレール・ディーゼルエンジンを搭載/140ps。
グレード(2ドアモデルX-tendCab(日本円:170万円)4ドアモデルDouble Cab(日本円:200万円))。
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/タタ・モーターズ
・ウインガー(Winger 、2007年発売)
大型MPV。ルノー・トラフィックのライセンス生産車。
引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Tata_Winger
・ノブス(Novus 、2005年12月発売)
タタ大宇が開発した大型トラック。
インドでも韓国から約1年遅れで発売された。
韓国では新たに中型トラックもラインアップに加わった。
引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Tata_Novus
・プリマ(Prima 、2009年11月発売)
世界戦略車に位置づけられる大型トラック。傘下のタタ大宇などと共同で開発。
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/タタ・モーターズ
インド車メーカーシェアランキング1位ダントツのマルチスズキの戦略
かつて市場を席捲していたアンバサダーは、国営企業によって生産されました。
インドではどこでも見られた光景。タクシーはほとんどアンバサダーだったのです。
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒンドゥスタン・アンバサダー
ところが、その生産性は極端に悪くて、年を追うごとに、その性能や品質が向上するどころか、逆に品質は悪化し、価格も上がるばかりだったといいます。
だから、インド政府は、品質の良い車を自動車先進国の力を借りて開発するために、交渉先を探していました。
1970年代終わりごろです。
交渉先の1社、スズキの鈴木修・現会長はインド市場の将来性を理解し、インド政府との合弁事業であるマルチ・ウドヨグ(Maruti Udyog Ltd、マルチスズキ)に参入しました。
1983年乗用車生産開始しました。
最初に製造した車種は、マルチ800、これを価格に敏感なインドの人向けに、画期的な低価格で発売しました。
マルチ800は、スズキアルトをベース、排気量800ccのエンジンを搭載
マルチ800(初代)
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/マルチ・800
これは爆発的人気になりました。
そして、インドの自動車市場をあっという間に席巻し、マルチスズキがインドの小型車市場を独占?いや、一時はシェア80%と寡占しました。
2000年代 インド国民の平均所得が向上するとともに生産台数も急増しました。
2006年12月21日 インド政府が全保有株式を売却し、完全民営化されました。
そして、
2007年9月17日、現社名「マルチ・スズキ・インディア」に変更しました。
2007年度 スズキのインドでの新車販売台数が初めて日本国内を上回り
インドでの新車販売台数は前年度比12%増の71万1818台に達し、
同3.4%減の約66万7000台であった日本での販売台数を4万5000台近く上回りました。
1981年 スズキがインドへの投資を決めた当時、他社が米国中心の海外進出の中、インドへの進出が異色中の異色で、失敗すれば経営危機とすら危惧されていましたが、スズキは、インドにおいて日本国内販売を上回る、見事な結果を出しました。
2014年1月18日 ついに、マルチ・800の製造が終了。累計販売台数は250万台を超えました。
マルチスズキ アルト800
2015年より新たな販売網として「NEXA(ネクサ)」を立ち上げました。
【マルチスズキの概要】
全従業員数13000人車ラインアップ
内、日本人は100人未満
ノックダウン生産から
開発から製造までが一貫生産
製造工場は、デリー近郊のグルガオン工場とマネサール工場
主な車種
・アルト800(マルチ・800後継)
引用:https://commons.wikimedia.org/…/File:Suzuki_Alto_800_GL_2013…
・アルトK10(5代目ベース)
引用:https://www.marutisuzuki.com/channels/arena/hatchbacks/alto-k10
・ワゴンR(4代目スイフトがベース、日本仕様とはデザインとサイズが大きく異なる)
引用:https://www.marutisuzuki.com/channels/arena/hatchbacks/wagonr
・セレリオ
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/スズキ・セレリオ
・スイフト
引用:https://www.marutisuzuki.com/channels/arena/hatchbacks/swift
・ディザイア(スイフト派生の4ドアセダン)
引用:https://www.marutisuzuki.com/channels/arena/sedans/dzire
・エルティガ
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/スズキ・エルティガ
・オムニ【(初代)エブリイ】
引用:https://www.marutisuzuki.com/channels/arena/vans/omni
・イーコ【エブリイランディ】
引用:https://www.marutisuzuki.com/channels/arena/vans/eeco
・ジプシー(2代目ジムニーのホイールベースを345mm延長し、全長を4m以上にまで拡大したもので、大きめのリアクォー・ターウインドウが特徴的。救急車仕様もある)
引用:https://www.marutisuzuki.com/channels/arena/gypsy
・ヴィターラブレッツァ
引用:https://www.marutisuzuki.com/channels/arena/suvs-muvs/vitara-brezza
※【 】内は日本での車種名
以下4車種は「NEXA」で販売
・S-CROSS(日本名:SX4 S-CROSS)
引用:https://www.nexaexperience.com/s-cross.html
・バレーノ/バレーノRS(マネサール工場から全世界向けに輸出。日本向けにも輸出される)
引用:https://www.nexaexperience.com ? THE NEW BALENO
・シアズ/シアズS
引用:https://www.nexaexperience.com/ciaz.html
・イグニス
引用:https://www.nexaexperience.com/ignis.html
インド車メーカー タタ・モーターズの復活なるか?
一時は80%のシェアを寡占していたマルチスズキ
経済自由化で海外自動車メーカーがインドに進出する中でも、マルチスズキのシェアは40%まで落ちましたが、ランキングトップは変わりませんでした。
一方、タタ・モーターズは、マルチスズキに対抗して、世界的に有名になった低価格戦略車「ナノ」を投入しましたが、インド人のニーズを満たすことができず、どんどんシェアを下げて行きました。
皮肉なことに、そのナノこそ、タタ・モーターズ凋落のきっかけであったという驚きの事実があります。
同じインド人なのに、彼らの自動車に対するニーズをつかめなかったのです。
1.デザイン、色、価格および税金
ポイントは、あのインド人の顔です。
目が大きくて、輪郭のはっきりしたインド人
そういう車のデザインを求めています。
だから、マルチスズキの現地のデザイナー(日本人)は、
・厚みを感じさせる力強さ
・流れを感じさせるダイナミックな造形美
とそのポイントを語ります。
そして、その実現の方法は、
インド人のお客様の話を聞いて、
インド人のデザイナーとモデラーと一緒に作る
とのことです。
顧客一体型の開発になります。
インド人ではない日本人が現地の感覚をつかむのは難しいということでしょう。
つまり、逆に、日本で、インド人がインド車を売る時にも、日本人の感覚が分からないのと同じです。
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/マルチ・800
そして、色は?
インド人が好む車の色は、どんな色でしょうか?
白です。
インドでは圧倒的に白です。
白は、インドでは高貴な色とされています。
政府高官などの公用車も、黒塗りではなく、白塗りです。
インド人が車を所有することをステータスと考えるなら、当然、白を選びます。
実利的には、インドは未舗装の道が多く、乾燥しがちな気候ですから、街はホコリにまみれています。
ホコリが目立たないという点でも白が選ばれる理由の一つです。
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒンドゥスタン・アンバサダー
この写真で見ると、インドのタクシーは、白ではなく、黄色だったんですね?
それから、インドは、0を発明した国だからという理由ではないでしょうが、
インド人は、お金に厳しい目を持っています。
要するに、ただのケチなのかもしれませんが(笑)
引用:https://educalingo.com/en/dic-en/rupia
問題は、インドでの車の税金や排ガス規制
車を購入すると、税金がかかります。
インドでも同じです。
だから、税金を安くする方法を探すのはインド人も同じです。
全長4メートル以下の車の物品税が低く抑えられています。
購入層の収入を考えての政策です。
最近は、中間層の収入が増えてきたので、4メートル以上のクラスの車が発売されています。
マルチスズキの車種では
S-CROSS
引用:https://www.nexaexperience.com/s-cross.html
シアズ
引用:https://www.nexaexperience.com/ciaz.html
などがあります。
タタ・モーターズの車種では
インディゴ・マリーナ
引用:https://en.wikipedia.org/wiki/File:Geneva_MotorShow_2013_-_Tata_Manza.jpg
SUVですが、
サファリSTORME
引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Tata_Safari#/media/File:Safaridicor.jpg
などがあります。
さらに、地球環境にやさしく排ガス規制も
2019年からユーロ6レベル同等の規制強化が行われます。
当然、買い替え需要も高まり、インド自動車市場は、さらに、競走が激しくなります。
そんな中、タタ・モーターズの車種の数は、マルチスズキの車種の数と比べると見劣りがします。
2.インドでの道路をフェラーリやランボルギーニが走る?
デリー市内のマトゥラ通りには、
フェラーリ
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/フェラーリ
ランボルギーニ
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/ランボルギーニ
マセラティ
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/マセラティ
といったメーカーの豪華なショールームが並んでいます。
しかし、道路は、神聖な牛が寝ころび、馬や豚が歩いているし、リキシャという人力車、トラクターと、クラクションのけたたましいことといった、たいへんな混雑どころか、混濁した状況で、路上生活者たちが大声を張り上げているし、道路の至る所に速度制限が設置されています。
インドの雑踏ぶり
こんな道路状況の中で、
フェラーリ
ランボルギーニ
マセラティ
など走らせられますか?
ありえないでしょう!
ところが、そんな車にかかる高額な取得税や関連コストにもかかわらず、売れ行きがハンパないのです。
レクサスもインドでの展開を開始したとのことです。
道路がこんなに未整備な状況の中で、日本人の感覚では、絶対買わないでしょう。
いくら所有することがステータスとはいえ、全く、走らせる道路がない状況では購入しても無駄なだけです。
せいぜい、都市部の整備されたところを走らすだけでしょうが、その道路ですら、路上生活者がうようよいたら、無理でしょう。
しかし、これだけ、インドの自動車需要が伸びているのですから、インド政府もこれからの道路整備に取り組むことでしょう。
3.拡大し続けるインドの自動車市場
人口では、世界第2位のインドです。
世界第1位 中国 約14億人
世界第2位、インド 約13億人
両国とも経済成長が著しく拡大している中、自動車市場も当然拡大中です。
2016年の世界の新車販売台数(概算です)
第1位 中国 2800 万台
第2位 アメリカ 1780 万台
第3位 日本 500 万台
第4位 ドイツ 370 万台
第5位 インド 366 万台(前年比7%増)
この15年で4倍前後に増えました。
人口は日本の約10倍ですから、この調子では、ドイツを抜いて、さらに、日本を抜いて、まだまだ拡大していきそうです。
世界の国別新車登録・販売台数は、2017年 主要国の自動車生産・販売動向(日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部 海外調査計画課)によると、下表の通りです。
国別の新車登録・販売台数の2015年~2017年の推移を見ると、インドがドイツを抜き日本に肉薄しています。
引用:https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/9fae66f5ebb08559/20180026.pdf
4.インドでの自動車需要は本物か?
米国のESTAに似たシステムで、空港の入国審査は簡単になり、空港内からも路上生活者はいなくなりました。
けれど、一歩、オールドデリーの外に出ると、やっぱり、30年前と変わらず、犬や牛とともに、路上生活者がうようよしてます。
貧富の差は日本と比べると、貧しい人、富める人、その差が格段に大きいのです。
インドの経済成長グラフ(名目GDPの推移)
引用:世界経済のネタ帳 https://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=NGDP&c1=IN&s=&e=
そんな中で、自動車が約400万台を超えて、売れていくのは、都市部を中心に中間層の収入が増えているためです。
もちろん、収入が増えると売れるのは自動車だけに限りませんが…
自動車を所有することは夢だったのが、購入できる収入を得たため、自動車は、ステータスシンボルとなりました。
かっての1960年(昭和35年)代の日本と同じです。
東京オリンピックは、1964年(昭和39年)
東海道新幹線開通は、1963年でした。
そのころの日本の経済成長はすさまじいものでした。
で、やっぱり、1960年代の日本と同じく、インドでも、車を買うことは人生の一大イベントで、ステータスシンボルで、人々の大きなあこがれでした。
だから、スズキの対向車種、タタ自動車の「ナノ」は、低価格を武器にしたのですが、あまりに合理的すぎ、ステータスを表現するには不足だったため、車を買う人のあこがれを満たすことはできず、あまり人気にはなりませんでした。
ナノ luggageSpace
引用:https://nano.tatamotors.com/
6.マルチスズキのインドでの強さの秘密は?
中国に続き重要なマーケットのインド、そのインド自動車市場でのスズキの強さがお分かりでしょうか?
日本を飛び出して世界戦略を進める一環に、インドがあったというわけで、当然のことながら、日本よりインドの売上が多いスズキは別格の存在と言えるでしょう。
これから自動車市場が拡大する国を狙って、スズキ自動車の世界戦略が展開されています。
スズキの四輪車の地域別の売り上げ
引用:https://www.suzuki.co.jp/ir/library/forinvestor/2018_4q/pdf/presentation.pdf
スズキ2018年3月期決算説明会資料の連結・売上高の状況から四輪車を抜粋しました。
これで見ると、
国内10,813億円
インド12,598億円
ですから、インドの売上が、国内を超えていることが分かります。
スズキの世界戦略の2018年度末時点の結果です。
また、主な動きとしては
・フォルクスワーゲングループとスズキの資本提携
・トヨタとスズキの業務提携
フォルクスワーゲン、トヨタの両者にとって、どちらもインド市場戦略の一環です。
伸び盛りのインド自動車市場を狙う世界中のメーカーとの競合から、マルチスズキとしては、マーケットシェアを維持するために、新たなモデルの投入をしなければなりませんが、インドでは開始されています。
1981年から28年間
マルチスズキはショールームやサービス拠点を営々と築いてきました。
最近入ってきた他のメーカーと比較しても整備されているのは当然です。
格別な存在、信頼性の高いイメージが定着したマルチスズキ
その強さの秘密がここにあります。
その強さを維持するために、具体的には
・2015年からNEXAという販売チャネルの展開
・新車S-CROSS、バレーノ、シアズ、イグニス
インドで生産したバレーノは、日本でも販売中です。
これから、マルチスズキとトヨタがお互いの強みを活かし、弱みを補強しつつ、インド自動車市場を攻略していきます。
7.タタ・モーターズの復活の戦略
タタ・モーターズは、インド自動車市場の中でも、商用車ではトップです。
商用車全体の販売台数が少ないです。
やっぱり、乗用車で復活しなければなりません。
マルチスズキなど海外メーカーに対抗して、タタ・モーターズの復活へ向けた戦略は?
ウィキペディアによると、
「イギリスのジャガーランドローバー(ジャガーとランドローバー)、韓国のタタ大宇、スペインのタタ・イスパノなどを傘下に擁し、またフィアット、カミンズ、マルコポーロなどの企業と合弁事業を行なっている。」
とのことですから、ジャガーやランドローバーを傘下におさめたりしていますので、お金にまかせて、海外メーカーの買収?M&Aや合弁などを進めています。
インド国内ではなく、世界戦略を打ち出しています。
スズキ自動車と同じ方向です。
ただ、マルチスズキはインド国内を牛耳っています。
タタ・モーターズは、インド国内での乗用車販売は、あきらめ、世界の自動車市場を牛耳る戦略なのでしょうか?
これも、簡単ではなさそうです。
たとえば、
2019年2月8日タタ・モーターズの株価、ダダ下がり
タタ・モーターズ傘下の英ジャガー・ランドローバー(JLR)の経営難が原因で、昨年10─12月期決算は過去最大の赤字を記録と報道されています。
傘下のランドローバーの経営難ということです。
世界中のいろいろな会社を参加におさめると、こういうことが、発生しますし、避けるわけには行きません。
ただ、世界戦略を進めるということは、このようなリスクは読み筋、起こるものと考えています。
だから、早速、緊急対策ですが、
2019年からジャガー・ランドローバーの電気自動車をインドで販売する計画を4月4日に発表しています。
また、新型SUVの『ハリアー』(Tata Harrier)をインドで発売しました。
トヨタのハリアーとは違います。
デリーモーターショー2018(オートエキスポ2018)で初公開された『H5Xコンセプト』の市販車です。
H5Xコンセプトカー
引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Tata_Harrier
ジャガー・ランドローバーと共同開発した新世代の車台は、ランドローバーの「D8」プラットフォームをベースにしていますし、インドの道路事情に合わせたチューニングを行っています。
その車台の名前が「オプティマル・モジュラー・エフィシエント・グローバル・アドバンスド・アーキテクチャ」と舌を噛みそうな、とんでもなく長い名前です。
ハリアー
引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Tata_Harrier
装備は、
・8.8インチの高解像度ディスプレイを持つタッチスクリーンインフォテインメントシステム
これは、Appleの「Car Play 」とグーグルの「Android Auto」などに対応しています。
・音声認識とSMSの読み出し
・音声アラート
・インフォテインメントシステムとメーター内の7インチカラーTFTディスプレイの間で、メディア、電話、ナビゲーション情報をシームレスに映し出すことができる、とのことです。
つまり、上のような対策は、昨年8月に発表した戦略「今後4年間で新型10車種以上の投入」に基づくもので、その時点でJLRの経営難は、お見通しだったのでしょう。
新型10車種とは、たとえば、
・電気自動車(EV)
「ティアゴ」(2018年9月)
「ティゴール」(2019年5月)
・SUV
「ハリアー」(2019年5月)
「イービジョン・エレクトリック」(2019年9月)
「45エックス」(2020年3月)
などが挙げられました。。
インド有数の自動車産業集積地グジャラート州で、タタ・モーターズのサナンド工場で、ガソリン/ディーゼルタイプの「ティアゴ」「ティゴール」など年45万台を生産しています。稼働率は100%というから凄い稼働率です。
この工場が製造拠点になるように生産性向上と従業員確保を行うとのことです。
発表された具体策は、例えば、
・生産ラインには190台以上の製造ロボットを導入
・使用電力のうち30%から35%は太陽光発電や風力発電で、二酸化炭素の排出削減への取り組み
・サプライヤー企業の数を3割削減
とのことですから、他の州内自動車メーカーやサプライヤー企業与えるインパクトは強烈です。
もともと、グジャラート州は、地場のヒーロー(二輪)や米国のフォード、中国の上海汽車、スズキやホンダ(二輪)の大規模工場が稼働しています。
グジャラート州前知事は、インド首相になっています。
インドの経済発展を支える中核の州がグジャラート州です。
どうですか、タタ・モーターズの復活戦略は、見事功を奏するかどうか、これから注目です。
ちなみに、3月7日から一般公開され「第89回ジュネーブモーターショー」での展示車種を発表しました。
・アルトロズの電気自動車(EV)タイプ(来年度発売予定)
・車体プラットフォーム「オメガ」を採用する7人乗りのスポーツ型多用途車(SUV)「Buzzard Geneva Edition(インド名未定)」
・「H2X(エイチ・ツー・エックス)」のコンセプトモデル
・インド国内で1月に発表したSUV「タタ・ハリアー」
なども紹介しました。
今後の展開が楽しみになります。
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